ARTIST file.01|怪獣造形 原型師【 原 詠人 】

ARTIST file.01|怪獣造形 原型師【 原 詠人 】

原 詠人(Eito Hara)
1956年2月2日、岐阜県郡上市生まれの68歳。雑誌「宇宙船」の読者ページに作品を投稿した事がキッカケで、大手玩具メーカー “海洋堂”にて怪獣造形におけるトップ原型師として活躍。有名な特撮映画の怪獣フィギュア制作を担う。当時製作したガレージキットはオークション等ではプレミアム金額で取引されており、復刻版が製作されているほど人気のカリスマ怪獣原型師。現在も怪獣に対する情熱から新聞を使った怪獣製作を続けており、今回の@IDEAのオープンに合わせ、数10年ぶりの新作怪獣「ドラゴン怪獣 パルマネラ」を製作いただいた。


 

 


 

怪獣の魅力にハマったキッカケを教えてください

8歳の時に祖母からゴジラのプラモデルを買ってもらった。そこから怪獣が好きになって、小学校5年生のお盆の時に、僕の母親の姉妹の人におもちゃ屋に連れてってもらったんですよ。まあ田舎のね、小さなおもちゃ屋なんで、欲しいものがひとっつも無い。それで仕方なく叔母さんが本屋に連れてってくれて、そこにあったのが「昭和42年5月号 別冊スクリーン 大あばれ怪獣映画大特集(近代映画社)」。昭和の本としては非常に珍しい本だったんですよ。当時子供が読む雑誌とかっていうのはね、全然写真が少なくって資料にならない。でもこれは特撮の種明かしはあるし、見たことの無い写真もいっぱいあるし、めちゃくちゃ内容が濃かったんですよ。ところが値段も凄かった、当時で680円。ゴジラのプラモデルで380円の時代ですからね。他の怪獣の本もあるからそっちにしたらって叔母さんは言うけど、何とか説得して買ってもらった。この本がキッカケで、この世界にどっぷりハマリ込んだんですよ。それ以降、プラモデルからSF映画まで怪獣に関する情報を必死に入手する日々で、もう全ての時間を怪獣の為に費やしてきたって言っても過言じゃないです。

 

怪獣造形をはじめた経緯は?

朝日ソノラマ(かつて存在した日本の出版社)から出版された「宇宙船」っていうオタクの本、これはね、今まで日本にない本だったの。それに読者の投稿欄ってのがあってね、色んな人が粘土やぬいぐるみで怪獣を作って投稿してた。それを見て僕も「やってみなあかんなー」って思って。

僕が小学校の頃の紙粘土って言ったら、新聞紙をちぎってバケツに入れて、障子紙を貼る糊を入れて足で踏むんですよ。それを固めたのがいわゆる当時の紙粘土。白い紙粘土ってのもあったんだけど、これは重たくて繊維質。だから思うように細かい作業が出来ない。それが僕が25歳の時に細密粘土(精密造形用石粉粘土)が登場したんですよ。これは何に使うかっていうと、瓶に粘土を貼り付けて人形を作るとか、レリーフみたいなのを作って裏に留め具を付けてアクセサリーを作るとか。その当時の名称でファンド。軽くて丈夫で彫刻刀で削ったりも出来るスーパー粘土ですよ。これが出たもんで「よし、造ってみよう!」と。

それで作ったのを「宇宙船」に投稿したんですね。そしたら海洋堂の方が「岐阜にえらい情熱的なヤツがおるで」って。当時 海洋堂には速水くん(速水 仁司 氏)っていう怪獣造形師がいて、僕は彼がつくる怪獣をずっと買い集めてたんですけどね、その速水くんがキングギドラっていうとんでもない難しい怪獣の造形に挑戦したって聞きつけて、僕も車を飛ばして大阪に見にいったんですよ。全国からマニア達が集まってね、駐車場が大変なことになってた。その時に海洋堂の専務が駐車場の整理に来て、僕の車を見つけて「岐阜ナンバーだけど、まさか原さん?」って。「宇宙船でゴジラ出してるでしょ?ウチで造形やってもらわなあかん」って声を掛けられて海洋堂の造形をやることになった。えらいツイとったね(笑)

当時僕は会社員をやってて。岐阜は繊維の街でね、地元の繊維メーカーの会社員として配送業務をやっていたんですよ。だから二足の草鞋で海洋堂の仕事をしてた。その時から今までずーっと岐阜の鷺山を拠点にやってる。今でいうリモートワークの先駆けやね(笑)ゴジラに ガラモンに ガメラに・・・数多くの怪獣フィギュア原型をやって。それぞれの作品に思い入れは沢山あるんだけど、今にも動き出しそうなポーズを心掛けてきましたね。

 

現在も新聞紙で怪獣製作を続ける拘りを聞かせてください

日本で怪獣映画製作が始まった頃は、みんなが試行錯誤してダンボールや紙で日本の怪獣を生み出そうとしていた。海洋堂で原型師だった頃、怪獣フィギュアの素材はFRPやゴム等の化学物質がメインで、大きさ等の規制が結構あったんですよ。当時から僕が本当に作りたかったものってのは大きな着ぐるみ級の怪獣だったから、大きな造型から細かな造形まで自由に扱える新聞紙に着目して、様々な大きさの怪獣を製作する事にしたんです。芯にしてるのは段ボール。新聞紙も段ボールも入手しやすい素材だし、自由自在に扱いやすい素材なんですよ。環境にもやさしいしね。

細かい表現をするならやっぱり大型作品の方が制作しやすいですね。ちなみに僕のこだわりは「岐阜新聞を使用して、接着糊はフエキでやる」事。

「ドラゴン怪獣 パルマネラ」の新聞紙原型制作中の原先生

 

今回コラボレーションをする事になった経緯を教えてください

僕が開いてる造形教室に御社の社員さんが通ってくれててね。僕が先生で、彼が生徒で。御社のマネキン資料館ってのに行ってビックリした!最初マネキンっていうのはFRPじゃなくて新聞紙で作ってたんだね!僕と同じつくり方をしてた。そこで粘土原型師さん(米徳 健次)と話したのよ。そしたら彼が「僕は元々造形の畑の人間じゃなくて、映画のエイリアンを観て感動して上半身の像を作った。それを先代の社長に見せたら、こんだけ出来るんだったら造形部入れって言われてやるようになった。」って言うんですよ。僕自身も結局美術関係には行ってないんですよ。行ってなくても独学で造形をやってきて、そういうところも似たような世界だなって、是非一緒に何かできたら面白いねって話をしてて。そしたら今度一般向けに商品開発をする事になったから、原さんに原型協力お願いできないかって話をいただいたんです。

 

今回製作いただいた「ドラゴン怪獣 パルマネラ」のデザインはどうやって生まれたのでしょう?

僕が最初にデザインしたのは、恐竜の感じ。ティラノサウルス とか アロサウルス とかの肉食恐竜みたいな感じのデザイン画を描いたんですよ。「イグアナ+トカゲ+コブラ」をミックスさせたモチーフで。子供たちは恐竜が好きだろうって思って。でも今ね、モンスターハンターっていうゲームがあるんですよ、子供たちはそれが大好きでね。だからやっぱり恐竜よりドラゴンの方がいいんじゃないかなって。

これには ちょっとした裏話もあって・・・僕は海洋堂でドラゴンを3つ作ってるんです。普通ドラゴンってね、恐竜みたいなんだけど首が長くて竜の頭して、それに翼が付いてるイメージあるじゃないですか。後ろ足が強固な感じで。当時僕が海洋堂から言われた事が「普通のドラゴンにしても面白くないから、君のオリジナルを作ってくれよ」って。そこで思ったんですよ、一般的にイメージされる竜に翼が付いただけの形じゃなくて、いわゆる哺乳類をドラゴンにしたらどうなるんだろう?って。実はこれはね、若狭くん(怪獣造形専門彫刻家:若狭 新一 氏)の造形のひとつで、鷲とか鷹とかの猛禽類のイメージでゴジラをつくってる作品があるんですよ。だから哺乳類とか鳥類とか世の中の色んなモチーフをドラゴンと掛け合わせた方が面白いなって思ったんで、僕もそれに倣ったんです。

僕が作った3つのドラゴンの内1つは“メガレックス”っていって、サイがドラゴンになったらってモチーフで作ったもの。四つ足で、顔は哺乳類っぽくて、それに翼を付けた、そんな形のドラゴン。これは某メタルバンドのCDジャケットにも採用された。そして3つの内2つは、古生物学芸術を専門とするアメリカのファンタジーアーティスト兼イラストレーターの巨匠「ウイリアム・スタウト氏」から頂いたドラゴンの別注製作の依頼。そう、今回デザインするにあたって、このウィリアム・スタウト氏のドラゴンを思い出したんですよね。ちょっと西洋的なイメージもあって。そこからインスピレーションを受けて、最初に描いたデザインにドラゴンの要素を加えて「ドラゴン怪獣 パルマネラ」が出来上がったんです。新聞での原型も当初はもっと恐竜に近いものだったんだけど、納得がゆくまで何度も作り直して今の形になりました。

原先生による最初のスケッチ

原型制作の過程でドラゴンの要素が追加されていった

 

「ドラゴン怪獣 パルマネラ」のこだわりを教えてください

今まではガレージキットっていうマニアの世界の模型の仕事だったんだけど、今回の「ドラゴン怪獣 パルマネラ」は一般の人にも手に取っていただける商品。やっぱり一般の人も認めるようなものを出す、僕にとっても大事なことだと思うんです。お話を頂いたときは本当に嬉しかったんですよ、一般の商品、いわゆるインテリアの分野で僕の商品が出るのはありがたい事なんで。

最初、僕言ったんですよ「型が抜きやすい形にした方がいいんじゃないの?シンプルにした方がいいんじゃないの?」って。そしたらパールイデアさんが「原さん何言ってるんですか!あとからこっちは手直しはいくらでも出来るんだから、原さんのイメージで自由にやってもらって、それをこちらでいかに近いものに出来るかを一緒に切磋琢磨するのがいいんですよ!」って言われてね。嬉しかった。穴の空け方ひとつで煙の出方が全然違う。瀬戸物焼きになっても釉薬の色のつけかたまでこだわって作って。ガレージキットは1週間で商品化するんですけど、これはね、出来上がるまでに1年かかりましたよ。

 

今後つくりたい造形はありますか?

立体の壁画とかは既に構想に入ってます。最近だんだんと怪獣はアートとして認められてきた。それまでは遊園地とかデパートの屋上とかで見るものだったけど、今は違う。みんなの目が「怪獣=おもちゃ」から、「怪獣=アート」と見られるようになってきたんだと思う。

今は怪獣の面白さを子供たちに伝えるためにも、カルチャー教室で新聞紙を使った造形を教えてます。

まだ怪獣造型師になったばかりの頃、怪獣映画の看板製作のお手伝いをした時に施主から言われた「モノを創造する仕事、怪獣造型師として“師”の付く人は60代からだと思う」って言葉が忘れられませんね。様々な経験を積んで60代になって、僕には「怪獣」しかないと思ってる。とにかく怪獣が好きやでね。写真見んでも手が自然に動く。身に沁み付いとる。もうね、自分自身それしかない。俺が描かんで誰が描く!ってね。なんでもやるで!

 


 

@IDEAでは、原詠人先生とコラボレーションしたオリジナル商品を、第二弾・第三段とリリース出来るよう、絶賛商品開発中です。厳選されたサスティナブル素材を使用しアート要素をプラスした商品や、商空間デザインをご家庭用に使いやすくアップデートしたインテリアなどのラインナップを今後続々とリリース予定ですのでお楽しみに!

東急プラザ渋谷で行われた「伝説の怪獣原型師 原詠人の世界」の様子

「原ガレキのひみつ」「伝説の怪獣原型師 原詠人の世界」では、先生のご厚意により「ドラゴン怪獣 パルマネラ」の現物展示も行いました 

 


 

このアーティストの商品

 MONSTER HEAD|incense holder / collaboration by 原 詠人

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